子供の智慧

 あの日もうだるような暑さだった。おそらくオレが10歳で、弟が6歳であったと思う。鳴りやまない蝉時雨の中、大粒の汗を流しながら自転車をこいでいた。ばあちゃんから貰った500円玉を落とさない様にチャックがついた方のポケットに入れて、少し離れた所にある大きなスーパーを目指した。まだ補助輪が取れない弟は遅く、オレはちょくちょく振り返っては「早くこーい!チンネン」と叔母が付けた渾名を呼んだ。

 そしてスーパーに着いたオレたちは一目散にお菓子売り場を目指した。チンネンに「一個だからな!」と念を押して、自分のお菓子選びに没頭した。そして早々に今で言う「食玩」といわれるおもちゃの付いたモノを選んだ。価格は300円である。

 「チンネン決まったか!」「決まった!」とチンネンが持って来たお菓子は100円だった。しかし、オレのモノを見たチンネンが「やっぱりそれがいい」と言い出した。オレは「変えるの無し。行くぞ!」と言った。しかし、べそをかきながら「それがいい!」と主張して譲らない「500円しかないのに300円のモノ2個は買えないだろ!」ともっともなことを言うも「兄ちゃんだけずるいよ。。。」と食い下がるチンネン。

 4年生のオレは、この問題を解決する方法を必死に考えた。そして見つけた。半額のシールが貼ってあるお菓子の存在を。しかし、箱にはバーコードがあって、レジで半額の商品が予め入力されていたとしたらエラーが起こるのではないかということが懸念された。そして突き返される可能性を想像すると、話が通じそうなオレがレジを通過するのは難しいという結論に至った。

 「チンネン!今から兄ちゃんの言うことを聞けるか!?そうすれば500円で600円のお菓子が買える!」「うん」「このお菓子とお金を持ってチンネンが一人で買ってくるんだ」「兄ちゃんは!?一人で!?」「そう、一人でだ。レジの人は、このお金では買えないと言うかも知れない。それでも兄ちゃんのところに帰ってきちゃ駄目だよ。誰も一緒に居ない、一人で来て、これを買って帰るの!と言い張るんだ。いいか!?」「無理だよ・・・」「分かったじゃあ、お菓子は買わないで帰ろう」「それは、やだ・・・」「じゃあ、出来るな。兄ちゃんは袋の所に居るから行って来いチンネン!」「うん。」

 案の定、半額シールが引っかかった「僕、これはこのお菓子のシールじゃないの。だからお金が足りないの。分かるかな!?お母さんは!?」「ひとりで来たの。買えないの(泣)・・・」「うーん、仕方ないなぁ、今回だけだよ。今度は大人の人と来るんだよ」

 「兄ちゃん買えたよ」「馬鹿、店を出るまで話しかけるな」「うん。」

「よし!チンネンよくやった♪ 偉いぞ」「兄ちゃん2個買えたね!」「でも、今日のことは誰にも内緒だぞ!」「なんで!?」「子供でいるためだよ♪」「どういうこと!?」「まぁ、いいや。帰って遊ぼうぜ」「うん」
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by alchimista01 | 2012-07-19 12:52 | 一思案

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